武士というものは、めったに女性とは外出しないもの。
先祖の墓参りとかで仕方なくいっしょに出かけるときは、妻は風呂敷包みを抱え、夫の三尺後ろを歩く。
仲よく寄り添って歩いていて、万一、夫が襲われたら、互いにぶつかりあって身動きが取れないし、なにより夫が刀を抜けない。
三尺 (90.9cm) は、ふいに敵に襲われたとき、夫が反撃するための間合い。夫が生き残るための距離。
そして妻は、とっさに手のなかの風呂敷包みを相手に投げつけ、すこしでも夫が反撃できる時間を稼ぐのである。
だから、持ち歩く必要がないときも、わざわざなにかしらをくるんで出かけた。
武士の家は夫婦で守るもの、との考えからきたもので、女性蔑視からきた習わしではなかった。