インタビュー&リポート

OZAKI ERIKO

尾崎えり子 さん

Trist 代表/株式会社新閃力 代表取締役


イントロダクション

ママになっても働きたい、と願う女性は大勢いる。
育児休暇から復帰した会社は、時代の変化とともに仕事内容やさまざまなことが進化している。 しかし、ママたちが働く環境はさほど変わらず、一度は仕事を離れた女性たちがキャリアを活かして働ける場は少ない。
そこにあたらしい風を吹かせるのが、今回ご登場いただく尾崎えり子さんです。尾崎さんはご自身の経験から、 ママたちの選択肢と行動範囲を広げようと、これまでにない新しい事業をプロデュースしておられます。

彼女は「努力して結果が出るほどに仕事の自由度は広がり、仕事が本当に面白かった」と語るほど、 思いきり仕事に没頭した独身時代から、結婚や出産、そして育児を経験。 そこからは育児と仕事の両立の苦労に加えて、これまでのキャリアも邪魔することもあったといいます。
しかしそんな苦しい経験も新たな価値につなげることで、あたらしいイノベーションをつくりだしたいと奮闘する、 どこかたくましい彼女にインタビューさせていただきました。

尾崎えり子さん プロフィール

1983年香川県生まれ。株式会社 新閃力 代表取締役社長、 NPO法人コヂカラ・ニッポン副代表。
新卒で経営コンサルティング会社に入社し、結婚を機に転職。企業内起業で子会社を設立後に執行役員 として事業開発に関わり、第一子育休復帰後、代表に就任。第二子の出産を機に退職して、千葉県流山市にて㈱新閃力を設立。 流山市をベースに民間学童のプロデュースや行政とともに創業スクールを立ち上げる。創業スクールは30人枠が1日で埋まるほど人気があり、 卒業生の3割は創業している。2016年にシェアサテライトオフィスTristをオープン。コミュニティ+教育+オフィスの3つを軸に展開し、 1年で満席に。2018年4月には、2拠点目をオープン。 テレワーク推進賞やWork Story Awardなどを受賞。 NHKや日本テレビ等の番組や全国紙で数多く取り上げられる。NPOコヂカラ・ニッポンの副代表も務める。
現在、お笑い養成所(太田プロエンタテイメント学院の13期生)で勉強中。7歳と5歳の二児の母。


-ママになられてどうでしたか。さまざまなことが変わりましたか。

そうですね。まず、子どものためにも良い環境を求め、流山に越してきました。ここは“母になるなら流山”というキャッチコピーで共働き世代が非常に増えています。都内へのアクセスがよく、自然も多いので、のびのびと子育てができる場所です。
ですが、想像した以上に育児と仕事の両立は大変でした。
保育園に送ってから駅まで向かうと、片道1時間半はかかりました。会社に着いた途端に保育園から子どもが熱を出したと連絡が入り、トンボ返りすることがよくありました。仕事の効率が上がらなくなり、子どものことを「私のキャリアを邪魔する 存在」とすら思うようにも。会社にも、子どもにも罪悪感が募り、心身ともに辛かったですね。

自分が当事者になって分かったこともありました。それはママたちの本音やライフスタイルです。育休前に自分が携わっていた幼児向けのスポーツ通信教材を復帰後に見直したら、「これはママたちが求めているものと違う」と感じたんです。ママた ちの意見を参考にして商品化したはずなのに、真の声は聞けていなかったんですね。けど、それに気づけたってことは、「ママの視点」という強みをもてたことになりますよね。

-仕事と育児の両立の厳しさに直面されたのですね。それからどうされたのですか。

私は考えることが好きです。なぜ楽しいのか、なぜ辛いのか。その瞬間瞬間の感情の揺れをしっかり考えてきました。
2人目の育休中では、「どんな母親になりたいのか」「どんな人生を歩みたいのか」じっくり考えました。
子どものことをいちばんに考え、おいしい料理を作り、夫を支え、仕事もこなすのが理想かもしれませんが、私は自分の時間を大切にしたい。子どものためではなく、自分の人生をやりたいように生きたいのだと再認識したんです。
家庭を放棄するという意味ではありませんよ、ママとして捨てることも大事です。私が家の中で笑っていられたら、子どもたちはどうですか。頑張って料理を作ることでイライラしているより、夕飯がお惣菜でも、ママと一緒にいる時間を楽しく過ごせたほうがいいですよね。家族に出せる価値、仕事に出せる価値がそれぞれあるように思います。
それで2人目の子どもを産んだ時に会社を辞め、通勤に長い時間を割くのではなく、流山市で起業することにしました。

-地域コミュニティを大切にされておられますが、それはなぜですか。

働きながら育児や介護をするためには、地域コミュニティは欠かせないものです。
地域に知り合いや友達がおらず、助けてもらえる環境がない。その上、通勤先が都内では子どもは守れませんよね。元気な時は良いけれど、有事の時には地域のコミュニティがセーフネットになってくれるんです。地域のおじいさん、おばあちゃん、お店、すべてがそうです。
私も風邪をひき、両親にも夫にも頼ることができないどうしようもない状況になったことがあって、そのとき近所の60代のご夫婦に子どもをみてもらえませんかとお願いしたことがありました。ご夫婦はこころよく引き受けてくださり、頼ってくれたことに喜んでもくださいました。コミュニケーションや交流は面倒なことかもしれませんが、それが助けになります。それに気づけるかどうかが大切で、多くの人に気づいてもらいたいんです。
そんな思いから開設したのが、シェアオフィス「Trist」でした。家族の近くでキャリアアップできる仕事をしながら、地域コミュニティを築いていくことができる場です。
また企業のサテライトオフィスとしても活用してもらうことで、子育て中のママが苦労して都内まで通勤しなくても、地元で安心して働くことができるようになりました。現在は11社、40~50名ほどの利用があり、お父さんの利用もありますよ。

-自分を信じて働ける場所ですね。

仕事を辞め経済的に自立できなくなることで自信を失う人が多く、スキルやキャリアを生かすには自分に自信がないとだめだと思っています。なので、自分で稼ぐ力、活躍する場というのはとても大切で、それはママになってもそうだと思うんです。
その力を持つことが自分や子どもを守ることと繋がると考えています。
私の子育ても、”ママがいなくても生きていけるように”ですよ。明日私がいなくなっても生きていけるように、です。
英語が話せても、それだけでは生きていけないですよね。息子には保育園の時からフリーマーケットを通して、お金の計算の仕方や売り方、などを体験させていますよ。売れた時の喜びも感じながら楽しんでいます。なので、売れるための商品の伝え方なんかも考えて工夫しますし、人とのコミュニケーション力もついていきますよね。

-楽しみながら身についていく生きた教育ですね。
では、尾崎さんはどんなお子さんでしたか。

幼い頃から野球をやっていました。とにかく「女子は弱いんだから黙っていろ!」というのが嫌で、よくジャングルジムのてっぺんに立って、強い人を探していましたよ。
それと気になっていたのは運動会の騎馬戦。なぜ男子だけなのか、先生に聞いたんです。そしたら「お前にはできない、女子にはできない」と言われ、そのことも強く記憶に残っています。
兄弟は3人で、兄と妹がいました。真ん中だったこともあり、両親の目は兄や妹だけにいっている気がして、“私を見て!”という環境で育ったように思います。
中高では、いじめられた経験もあります。辛いというより恥ずかしかったですね。なぜかって、つねに描いていた自分は活躍する自分だったからです。そんなこともあって、一層自分自身がしっかりしていればと考えていたので、高校ではお金を稼ぐ気持ちも生まれていましたよ。 “働く、稼ぐ”この力を持つことが自分を守ると思ったのです。

-尾崎さんの名刺に大きく「戦う女子」とありますよね。
ずっと気になっていましたが、その意味がすこし分かった気がします。

はい、戦うことが好きなんです。喧嘩をしたいわけではないですよ。固定概念や常識を壊していくということが好きです。
それも圧倒的に楽しく、です。
で、今後も圧倒的に楽しく常識を壊していくために、今やっている仕事では得られない学びを得たいと考えるようになりました。
経営者としてさらに上をめざすためにMBAの取得も考えました。でもそれって自分の価値が上がる唯一無二ではないなと感じたので、いまは、あることを学んでいます。

-それは、何ですか?

お笑い養成所でエンターテイメントについて学んでいます。芸人志望の方々と同じ授業を受けながら、放送作家としてのスキルも勉強しています。半年通って思うことは、人を笑わせるって本当に難しいということ。でも、日常の当たり前に起こる出来事やモノを全く違う切り口で魅せていくスキルは、これから必ず必要になってくるものだと確信しています。常識を壊していくためにも、今の自分の制限を取っ払い、もっと発想を広げたいんです。新しいものを作るには、多様な角度から物事を捉えて、掛け算をする必要がありますから。

-驚きました。新しいことを生むということに、本当に貪欲でいらっしゃいますね。

自分で新しいものを、ゼロから生み出す感覚が好きなんです。
それと、時間が空くと不安になるんですよ。何か新しいことをしなくてはと。

-プロジェクトのひとつで、「トリニテ・ワンピ(TRINITÉ ONE-PIECE)」をつくられましたが、これも新しいチャレンジでしたよね。

はい。これは、5人の働く母親たちが「自分たちのための服」を考えるプロジェクトとしてスタートしました。
子どもを産む前は、自分を中心に考えて、いろんな事や物を選んでいました。服もそうですよね。とくに「オシャレ」は、女性の心や行動を変えて、未来も変えます。 素敵な服は自分に自信を持たせ、チャレンジするエネルギ―を生んで、新しい自分を作っていく原動力になりますよね。 汚れることや動きにくいこと、それに着にくさなどを気にせずに思いっきり自由に服を着たいという想いを込めて作りました。
服づくりはメンバー全員素人でしたが、浮き彫りになった課題に対して真剣に考えました。 文句を言うだけじゃなく、解決方法まで提示し、1年間、試行錯誤を重ねました。良いものができましたよ。ビシッと働き、ぐちゃぐちゃになって遊び、フラッと買い物にも出られる。 機能性とデザイン性、実用性も兼ね備えたワンピースが完成しました。私もよく着用してますが、他のママさんたちからも愛用しているという嬉しい声をもらっていますし、このワンピースでみなさんキラキラしています。失敗を恐れずチャレンジしていくママたちが増え、そのストーリーが服にさらなる可能性も与えてくれることを期待しています。


取材:山口絵美