インタビュー&リポート

OHTA HIROHISA

太田博久 さん

株式会社太田屋 代表取締役社長


ひとは死なない
葬送供養をつうじてグリーフワークをサポート

みなさん、グリーフワークという言葉はご存じでしょうか。

私たちはかならず、いつかは大切な人との別れの日を迎えます。もちろん、それはずっと先のことかもしれませんし、みんなそう願っているはずです。
が、その日はもしかしたら明日、今日だったりするかもしれません。

日頃から、そんな日の事を思いながら、ご自身のこころと真剣に向き合ったことはありますか。
グリーフワークとは、私たちが大きな悲しみと直面したとき、その悲しみと向き合い、受け入れ、大切な思い出として、 一緒に新しい未来へと歩んでいくための道しるべとなる活動です。

このグリーフワークを基本に、私たちが悲しみと向き合うためのサポートをされていらっしゃる、 株式会社太田屋の代表取締役社長の太田博久さんにお話をうかがうことができました。

Q:グリーフワークとは、どういったことでしょうか。

太田さん:グリーフワークのグリーフはいわゆる喪失、愛着のあるものを失うことで生じる悲嘆を指し、 概念は非常にひろく、進学などでいままで生まれ育った環境や仲間と離れることもいいます。
なかでも衝撃が強く、かけがえのない大切な方を亡くされたことで抱く感情、喪失により生じる心の痛みや悲しみを、 グリーフの中心としてとらえています。
まずは受け止めて、受け入れて、亡くされた悲しみを克服し、乗り越えていく。 喪失感を抱えているご自身がなさる喪(も)の作業をグリーフワークと呼びます。

ご関係の深さで異なりますが、グリーフを持たない方は1人もいらっしゃらない。お釈迦様が生きることは苦だよとおっしゃり、 「四苦八苦」のひとつに愛別離苦という言葉があるように、2500年前からそう意識をされていた。今の私たちも、 そしてこれから先の未来の皆さんも同じではないでしょうか。人間であれば必ず抱く感情です。
わたしのイメージは、ご高齢で天寿をまっとうしたからいいというわけではない、いつの時代もご縁のあったみなさま、 とくにご家族のみなさまにとっては大切な方の死というのは理不尽で不条理な出来事です。「なんで今なのでしょうか、 なんでこうなのでしょうか」といわれるように、死というのは切っても切りはなせないし、簡単に現実として受け止めることはできません。 そこから葬儀の儀式などプロセスで時間をかけて、いろいろな方たちとお話しながら、「そうだね、それでよかったよね」と、 なんどもなんども思い出して徐々に受け入れていく。
私どもはご遺族やご縁のあった皆さまがもつグリーフワークを、まず葬送・供養という手段を通じてサポートしております。

Q:亡くされたケースや、人によりグリーフワークにかかる時間は異なるのでしょうか。

太田さん:まったく違いますね。人により差がありますし時間がかかります。
その人にとって何がグリーフワークになるかも、やはり人それぞれですね。
コロナ禍のはじめのころは、亡くなったと聞いても会うことができずに遺骨になってから対面したという方は、 亡くなったことを実感することができないままでした。まず受け止めるための重要な、悲しむという場面の プロセスがポンっと抜け落ちてしまっていたからです。それでも克服しなければいけない、こうしたケースは乗り越えるに時間がかかりますね。
そんななかでも、亡くなられる前に病院ではなくお家で最期をみてあげられた。「よかった」と思えることを見つけることでも、 ひとつ乗り越えられるのではないかと思っています。

私自身、いままで家族の死、身近な方々の死で実感したのが、グリーフワークは世の中で必要だという思いでした。 2045年くらいと予測されている多死社会では、ピークで166万人の方が亡くなられるといわれていて、日本ではここ十数年のあいだにご自身の グリーフが訪れることになります。
研究では、グリーフをきちんと受け入れて克服しないと過度にトラウマになり、病的悲嘆といわれる精神疾患をかかえて仕事に影響をおよぼし、 医療費の負担増にもつながる。さまざまな問題を抱えることになるともいわれています。

私どもはご葬儀のご依頼を受ける段階から、かかわりあいをもちながらサポートしていく葬送という仕事の社会的な役割や意義を深く受け止めています。 それぞれ事情の異なる方をいかにサポートしていくかで、これから先、ご葬儀やご供養のかたちが変わっても、 その価値を社会に認識していただきながら、なくてはならない仕事をさせていただける会社として存在できるのではないかと考え、 グリーフワークをサポートすることに力を入れています。

Q:グリーフワークはとても大切なのですね。

太田さん:かけがえのない、亡くなられてしまった大切な方と直接話をしたり触れることはできないけれど、ご生前とは違う存在として、 今度は自分の心とカラダの中に刻み込まれ、ずっと見守ってくださり、なにかあったときにはげまして支えてくれる、 自分の中に新しい存在として位置付け直される。そういうことをどこかで感じることができたとき、克服ができた。 ある意味乗り越えられたという状態が、グリーフワークのひとつの行きつく先なんじゃないかなと思っています。

死は変えることはできない現実。ですが、先には、新しい存在としていてくれる。
生物的に医学的に死があったとしてもその方のなかで新しい存在として、見守って支えてはげましてくれる。 その人の中で生き続けている限り、人は死んでいない、死なない。そう思っています。

お葬式や法事のプロセスであったり、お仏壇やお墓などでも手を合わせ、語りかけて思い出してあげることで、新しい存在として 位置付けることができる。その状態になっていただくことがグリーフワークで乗り越えられた状態じゃないかと思います。

Q:できれば訪れてほしくないグリーフですが、故人が亡くなられる前に、私たちがその方にできることはあるのでしょうか。

太田さん:なにか意識しながらかかわることができるかもしれません。
たとえば最後の看取りなどを意識しておくことで、いざお亡くなりになる場面に直面したときに、 お気持ちはある程度コントロールできるかもしれないかなとは思いますが、ただ、正直なところはわかりません。
直面しないと予測できませんし、どんなご関係だったのか、関係が良ければ亡くなられた後も良いと一般的にはいえますが、 ご自身では、どこまでどういう風に傷を負っているかは、なかなか自覚することができません。
自分には知識がありある意味克服したと思っても、ふとした時に出てきたり、なかなかコントロールができるものではないからです。
たとえば、とても悲しんでいてまわりの方に何もできない方がいらっしゃれば、反対にあっけらかんとしている方もおられます。ひとついえるのは、 グリーフワークというものを少しでも理解していただくとそういう状態なのだとわかって接することができるようになっていきます。
自分自身のことまで気づけないし、意識することもできない。そいうものだと捉えていただくことで、いざ自分に何か起きたときに、 変だと思う自分に対して客観的に対処できると思います。

Q:知人が家族を亡くされた時、なんと声をかけてあげ、その悲しみにどう接してあげるべきなのかアドバイスをいただけますか。

太田さん:一般論ですが「素直に悲しんでいいのですよ。」
いざ直面されると、いろいろなことに気をつかって感情を抑えてしまい、つい我慢をしてしまう。
素直に悲しむというのは基本的な部分で大事なことです。
そういう場を経験することが大事だといわれており、とくに初期の段階では重要だといわれます。

グリーフは喪失の悲嘆ともいいますが、縁のあった家族、自分の一部を失うことでもあります。
哲学的ではありますが、自分は過去からの出来事の積み重ね、過去からの記憶でできている。近しい方、想い出や経験、 その方がなくなることによって、そのものが欠落するといわれています。新しい存在として位置付け直すというのは、 ご生前の姿ではないが、欠けてしまった部分を別の存在として埋めていく、そういった作業になるのかもしれません。
細胞の一部が新しくなった自分。その自分がこれからの人生を歩むために、自分自身も新しい存在となり、それが乗り越えていくということ なのかなと思っています。

ご先祖様についてもお話いただきました。
太田さん:薬師寺の管主をなさった「高田好胤」さんが、25代遡っただけでも自分には33,554,432人ものご先祖様が繋がっており、 その人たちひとり一人が毎日判断をした結果が今につながっている。
朝起きてなにをするか、一瞬一瞬の判断がひとつでも違っていたら、いまここに自分はいないかもしれないし、つながらないかもしれない。
自分自身の判断で出会う人、毎日の判断の積み重ねで一生をつくるとしたら、だからこそ尊い。
あなたがあなたとして存在していることが奇跡。
日本語のありがとう「有難う」は、有(あ)ることが難(むずか)しいと書きます。こういう姿でこうしてこうやっていることが繋がり、 一人の経験が違っていたらあなたはここにいない、だからありがとう(有難う)というのですね。

ふと、記事を書き終えて思い出したことがありました。
その時は「毎日、面倒だな」なんて思いながら日々通った、病院や保育園への送り迎えの車内で過ごした家族との時間も、 やがては巣立ちの日や別れの日が必ずやってきます。
そんな大切な人とのかけがえのない時間や思い出、こうしたものは失ってから初めて気が付くものだと、90歳を過ぎたある方からお話をききました。
だからこそ、私たちは大切な人とのお別れを迎える前に、大切な人と過ごす時間にひとつの後悔も残さないよう、その日、その一瞬を大切に 生きていかなければいけない。それこそがグリーフワークを考えるスタートなのだと、つよく感じさせられるお話でした。

太田さんがおっしゃった「人は死なない、新しい自分の一部となり、これからの人生を歩む」という言葉をこころに灯し、 太田さんという素晴らしい方に出会えた奇跡、お話をお聞きする機会をいただけたご縁に感謝しながら帰路につきました。


取材:わいがやスタッフ