
猫好きの方も、猫にお困りの方も、いっしょに笑顔にしたいから。
野良猫の不妊化を通して人との共生に取り組む
「千曲ねこの会」会長
平田 里美 さん
HIRATA Satomi
会長をつとめておられる平田里美さんを訪ねた。
”千曲ねこの会“は、2018年11月に発足した市民ボランティア団体で、同会は
「飼い主がわからない猫、いわゆる“野良猫”に餌を与えたものの、捕獲できずに繁殖してしまった」
などと相談が寄せられると、捕獲・不妊化手術を通じてバースコントロールを行い、住民の生活環境改善を図ることを目的として設立された。
活動は千曲市内が中心。ときには市をまたぐこともある。
「野良猫はどうやって生まれてきたのかを考えていただきたい」と平田さんは話してくださいました。
遺棄や迷子もあるが、大部分は飼育放棄によって発生している。その猫たちが繁殖を繰り返して子孫の野良猫がさらに増え、
糞尿被害、繁殖期の鳴き声などで住民を困らせ、苦情による近隣トラブルにまで発展する深刻なケースもある。
「こうした野良猫は、地域の中から生まれている。保護、里親探しには限界があり、大きな労力を強いられる。
猫を守るだけの愛護活動ではない、猫好きの為の活動ではなく、猫に困っている方を助ける活動だということを理解していただくことに尽力しています。」
【11月21日(日) 捕獲作業】
平田さんたち女性スタッフ3人が依頼主のお宅に到着。
依頼主から猫の目撃情報を手掛かりに、餌が入った捕獲用ゲージを的確な場所へセットする。

捕獲用のゲージに餌を入れる様子

依頼主の話から「通り道」と思われる場所へセット

人馴れしている黒猫が、ゆっくりゲージへ入り餌を食べ、扉がカシャン!と閉まる。
「捕まった!」依頼主からも捕獲までの速さに、驚きと歓喜がまじる声があがった。
警戒心が強い野良猫には、猫の習性を知り尽くした平田さんがまず餌の袋を見せる。そのうえで「少し離れていましょう」と、指示を出す。

この日、捕獲された野良猫は合計11頭。
【11月23日(火) 不妊化手術】
県下初の移動手術を行っている、「しんけん動物病院」 獣医師 松木信賢先生の動物移動手術車が千曲ねこの会の事務所に停まっていた。 この日は合計17頭の野良猫不妊化手術を行う。

専用につくられた移動手術車。先生のスケジュールは、かなり先まで手術予定で埋まっている。

松木先生がメス、オスと交互に手術ができるよう麻酔で眠らせた後に、平田さんたちは体重を計測し、時間を記録。手術後の体調管理も行っていた。

捕獲された野良猫は、いないと思うほど静かな猫もいれば、対照的にいつも鳴いている猫もいる。
ほとんどの野良猫は身をひそめて生活しているため、静かにしているが、人に慣れた野良猫ほどよく鳴くとのことだ。
Q:「千曲ねこの会」発足に至るまでの経緯など教えていただけますか。
平田さん:母親が猫好きで、自宅に集まる飼い主がわからない猫に餌を与えたところ繁殖をしたため、
不妊化手術のため長野市のNPO法人に運んだのが個人的に活動をはじめたきっかけです。
自宅周辺の猫を10頭ほど不妊しましたが、猫の流入が止まず、千曲市に働きかけをしている長野市のボランティア団体様へ相談しました。
ただ、なかなか進捗がみられず、やはり市民による働きかけがないからだろうと、千曲市民によるボランティア団体を立ち上げることになったのです。
ことしで発足4年目になりました。
Q:一番印象に残っていることはありますか。
平田さん:上山田温泉自治会では、以前より野良猫の繁殖や、マナーの悪い餌やりの深刻な問題がありました。
私たちから地域猫活動(不妊化手術を施し、地域内で管理をすること)を提案させていただきましたが、
なかなかご理解までに至らず、何度も説明会を開催しました。
あわせて県下初の移動手術を行う松木先生の開業とともに取り組みを始め、70頭近くの不妊化手術を
行っていきました。不妊化が進んでいくと住民の方の猫に対する感情も変わりました。
活動の中で、地域の課題について話し合う機会があり、すすんで猫の情報をくださる方も現れています。
「これでもう子猫が生まれない」依頼者も私たちも、ともに安心する瞬間にやりがいを覚えます。
Q:平田さんにとって、この活動や猫たちというのはどういった存在でしょうか。
平田さん:メディア、SNSで保護猫についてクローズアップされるようになりました。
必要なのは、繁殖抑制。
短い一代限りの命を見守ることが、猫との共生を実現できる道ではないでしょうか?
お隣の坂城町では、私たちの活動をもとに、町民による新しいボランティア団体発足の準備が進んでいます。
こうした活動は私たちのような、日頃仕事の傍らで行っているボランティアに支えられているのですが、
繁殖しすぎた野良猫を不妊化していくことは、並大抵なことではありません。
関わった方が、手術代、猫の捕獲1つをとっても「貴方たちのようなボランティアがいないと、不妊化が進まない」
とおっしゃいます。欧米ではこのような活動が寄付によって支えられています。寄付型社会だからです。
日本人は、寄付に対する意識が薄いと言われています。
どうかこの活動に賛同されるならば、お近くの動物ボランティア団体にお気持ちをお願いしたく思います。
猫好きの方も、猫にお困りの方も笑顔にできる活動、地域コミュニティも生み出す活動だと思います。
猫たちは、私にとっての弟や妹のような、そっと守るべき存在です。

Q:今後の活動予定や、目標などを教えていただけますか。
平田さん:千曲市内に地域猫活動の働きかけをし、さらに取り組みを行う自治会様を増やし、
支援するための啓発活動に力を入れていきたいですね。
また、対人の苦手な若者や、高齢者、障がいのある方と猫をつなぐ活動を行いたいと思っています。
住民と行政を橋渡しできる団体として長く活動していきたいです。
捕獲から移動手術車の様子を拝見して、知れば知るほど、かわいいからと餌を与えた猫が子どもを産み増やした場合、
1人ではどうにも手に負えなくなることに気づかされました。
平田さんたちは行政への働きかけ、獣医師との信頼関係、地域の皆さんの意識を変えていくために、様々なご尽力をされていらっしゃいました。
“千曲ねこの会”について活動内容を理解していただく方が1人でも増え、これから1頭でも悲しい思いをする野良猫がいなくなり、
さらに地域のみなさんに愛してもらえる猫たちが、人と穏やかに暮らせる日々が来ることを願っています。

取材・写真/中村直子