
仏像にときめいた高校生の仏師
大久保 汰佳さん
OKUBO Taiga
もう冬とはいえ、日差しが暖かく心地がよい一日。なんとなくワクワクしながら、大久保汰佳さんのご自宅へ取材にうかがいました。
それは汰佳さんが、高校生にして仏師であると聞いていたからです。テレビや新聞などの取材も多いようですから、すでにご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

ご自宅内にある「本堂」には、汰佳さんが作られた仏像や、無数の仏具が並んでいる。こちらの本堂で1日に2回お経をあげているそうです。
なんと、2,3才の頃より、仏像が掲載された本に興味を持ち始め、5才の時に家族で訪れた、奈良室生寺の十一面観音菩薩立像と出会ってからは、本格的に仏像の魅力にはまってしまったのだそうです。仏像を眺めていると、どうしても近くにおいときたくて、幼稚園のときの粘土遊びから、 すべては始まりました。汰佳さんにとっては、仏像がアニメのヒーローやゲームと同じ様に、憧れの対象となっていったのです。
― 作品を拝見させていただく前にお聞きしますが、汰佳さんは仏像と美術品としての彫刻の境目をどうとらえておられるんですか?
汰佳さん:よく聴かれるんですが、どちらでもありなんじゃないかなぁって思っています。見る人、拝む人の心の持ちようが全てだと。
私は美術館でも仏像であれば手を合わせますし。でも、じっさいに美術館で手を合わせる人ってほとんどいないですよね。
あとは、日本人独特の特性で、「場」に支配されるということもあると思います。〝美術館”というくくりの中にいると手を合わせることも忘れてしまうんだろうと考えています。
― 仏像を作られる時はご自身の想いを込めるのですか?
汰佳さん:仏像に我が入ってしまうと、それは仏像ではなく私の、つまり〝汰佳の仏像”になってしまうので、仏像を作る時、自分の想いを込めたりはあまりしません。かと言って、仏像の形をしているものにお魂(おたましい)が入らないわけではない。ここにある仏像全てにしっかりした形でお魂入れ(おたましいいれ)ができてはいないのですが。
仏像は仏師の手を通じてカタチにはなっていきますが、たとえば、1000年前に作られた立体物が残っているっていうのは、多くの先人たちの祈りや努力が仏像に込められて守られてきたのであって、私は仏像自体は美術品ではないと思っているんですね。
だから仏像をみるときは、拝みながら観察すると書いて「拝観」と言うんでしょうが、美術品をみるときはそうは言いませんね。

― いま、コロナ禍で世の中が急激に変わっていきます。さきほど汰佳さんが「変わらないものもありますよ」とおっしゃっていましたが。
汰佳さん:仏教的に考えますと、諸行無常といって、全てのものは移ろいで行くんです。
それこそ、昔なんかは、戦があったり天然痘があったりと、激動の世の中だった。
毎日の変化が、今のコロナの比じゃなかった時代かと思います。救われるものも今ほど多くはなかった。
でもやっぱりひとつとして、不変であるもの、変わらないものを「救い」として、人々は仏像などの形にして安心したのでしょうね。
人間何もしなくても、毎日細胞レベルでは変わってますから、実は何もしなくても大きく変わっているんですよ。

― ふだんから、よく全国の仏閣を参拝されているのですか?
汰佳さん:今年は、あまり行けなかったのですが、年間20~30のお寺さんをお参りをしています。
最近では、各地の博物館で仏像を中心とした展覧会が多く開催されていますので、そうしたところへも通って、到底1日じゃ観きれないので、ざらに5時間ぐらいは観てますよ。
年間で出会った仏像の数でしたら、300体はいくでしょう。人に会うよりは多いと思いますね。
三十三間堂なんかに行けばグンと多くなってしまいますよね。まあ、あれを1回とするのか・・・。
― 高校をご卒業されたら、どうなされるのでしょう?
汰佳さん:どうしようかな?と言うところですが、京都にいってみようかと思います。
東京は文化の中心ですが、京都は文化の原点ですから。だって、東寺に行こうと思えば毎日行けるんですよ?行くしかないじゃないですか!
結局、仏像を作ることも誰かに言われてやってる訳ではないから、自分の考え方に無責任かもしれないけれど、好きなことに向き合っていきたい。
― 汰佳さんが、今後訪ねてみたい国はありますか?
汰佳さん:ありますよ! どうしてもチベットは行ってみたいですね!ネパールとかも。
チベットには五色の万国旗のような「ルンタ」って旗があるんですけど、旗が天空に広がっている様を現地で生で見てみたいです。
インドやフランスも行ってみたい、まだ海外に行ったことがないので。

修験道の出で立ちで、お経をあげる汰佳さん。

ご自宅内にある「本堂」には、汰佳さんの作られた仏像や、無数の仏具が並んでいる。こちらの本堂で1日に2回お経をあげている。

汰佳さんの作業場。もう次の仏様が作られていた。仏像は「石粉粘土」でできている。
汰佳さん:昔、とある仏師に「手を作りなさい。」と言われたことがあり、今でも手だけを真剣に作ることがあります。
指や手の動き表情に仏像の温かみが出てくる、言うなれば安心感が出てくるそうです。

編集後記
学校の友だちも、汰佳さんの家に遊びに来たら仏様に手を合わせて行くそうです。それが普通のことで当たり前の光景。
ディズニーランドが大好きだと聞いて、すこしほっとしました。
そうなんだ、汰佳さんはまだ高校2年生だったんだと思い返しながら、ふうっと心温まる気持ちで取材先を後にしました。
