52.
刺し身と造り

気にもしないで注文していたけど、何が違うの?
刺し身は室町時代に始まって、そのころは切り身と呼ばれていた。
おもしろいのは、その切り身が何の魚かわかるように、名札の代わりにその魚のヒレを切り身に刺していたことだ。
やがて武家社会が到来すると、切り身のままでは、どうも腹切りを連想させて縁起がわるい。そこで、ちょうどヒレを刺していたことをヒントに「刺し身」と名を変えた。名は変えたが、ほかは変わらない。切り身を並べただけの刺し身だった。
さて、そろそろ料理人の登場である。
彼らはさまざまに創意工夫をし、隠し包丁を入れたり、流水で洗ったり、皮を炙ったり、器を小さな景色に見立てて野菜を細工して添えるようにもなった。
生きのいい魚に料理人の美意識と技術、つまり創造が加わったものが「お造り」となった。