わい
わいがや倶楽部

森下賢太郎さんにインタビュー

とても美しく作られた、市電の模型がありました。
お話を聞いてみると、そのほとんどを、プラスチック板から型取りしてオリジナルで作られているのだそうです。
趣味で、京都の市電を中心に模型づくりをされている森下さんに、その魅力について教えていただきました。


京阪京津線の旧型車

模型づくりをはじめたきっかけを教えてください。

京都の市内で生まれ育って、家の前を烏丸線が走っているのを生まれたときから見ていたから、ずっと電車好きだったんだよね。プラモデルを作ったりして。高校、大学はバンドをやっていたから作ってないけど、30歳くらいからまた作り始めたんです。
当時はメーカー品のキットを買ったりしていたけど、メーカー品に無いものは作らざるを得ないでしょ。そうやって無いもの無いものを補充する形でやりはじめました。

どうやってつくるのですか?

プラスチックの板から作ります。窓とかドアとか切り抜いて張り合わせて、組み合わせて。実物の写真を見たり、図面があればそれを見て作る。長さが分かれば大体割り出しができるんですよ。100%スケールモデルかといったら、それは分からないけどね。1/80スケールで作っているから、そこには収まるように落とし込んで。
車体のカーブとかは、曲げる角度に沿った当て木をつくります。

ゆくゆくはジオラマを作りたいと思っていて、自分で駅とか家を作ったりとか、ヨーロッパ物のキットを組み立てたりしてストックはしてる。でも場所が無いから固定はしてないので、たまに取り出して喜んでいます。
これを作っている人って、電車とかSLを見てるんじゃないんだよね、それが走っている光景を想像して楽しんでるんだよ。どんなところを走っていてとか想像力を働かせて、それで先を見ているというのがある。周りの人がそこだけみたら「なに子供みたいに電車眺めてるの?」って思うかもしれないけど、そういう奥深いものもあるっていることを知ってもらいたいな。だからここに家一軒しかなくても、自分の中では街になっているんだよね。

京都市電
京阪京津線の旧型車

色はどうやって塗っているのでしょう?

色は全部吹きつけ。ベランダに吹きつけ専用のコーナーを奥さんに作ってもらって。「ここでやりなさい」って。
専用の塗料が売っているのでそれを買ったり、無い色は自分で調合したり。そんなに寸分違わずってわけじゃない。肩がこらないようにやっています。

制作中に、何か考えていることはありますか?

「無」になってる。集中しているから、2,3時間なんてすぐ経っちゃう。でも毎日何時間やろう、って決めてるんじゃなくて「やろう」って思ったときじゃないと出来ない。商売じゃないし。でもそういうときは半日とかあっという間に経っていたりして、そういう意味ではいろんなストレスを発散することも出来てるかな。

道具へのこだわりはありますか?

道具は大事にはしているけど、特に高価なものとかはない。ただ長年使っていると、安い道具でも使いやすくなったりしてくるので、そこはあまりこだわらないかな。

工作机と道具

では、自分なりのこだわりって?

やっぱり模型なんでね。綺麗に作ろうと思ってる。
模型も楽しみ方はいろいろあってさ、リアリティを求めるためにわざと汚したり、中古感を出すやり方もあるんだけど、僕の場合は、模型はやっぱり新品の綺麗な状態が好きなんで、綺麗にあるべきものだと思って作ってる。
すっきりさせるために、余分なディティールを省略することもあります。あと途中で失敗したりもするんですよ。あーここ気に入らないなとか。でもとりあえず最後まで作っちゃう。修復しようと試みながら。とりあえず完成させること。

飽きることはない?

周期的にあって、もう作るのないなーというところまでいくんだけど、ちょっと冷却間を置いていると、また別のテーマだったり、今まで好きじゃなかったものに手を出しているってケースもある。
僕なんかは子供のころの影響で路面電車が好きなんだけど、それを作り尽くすと、「もういいや」ってなって、じゃあ今度は「福岡いくときに乗った電車あったなー」とか思って大きめのものを作り始めたり。(それでまた戻る。)その繰り返し。
年代もあるしね。結局「三つ子の魂百まで」じゃないけど、子供のころに影響を受けたものってずっと好きなんだよね。スタートはそこ。たとえば30歳で始めるとするじゃない?それでもやっぱり、もともと影響を受けたものをまた作るんだよね。
あと、建物関係を自分で作ることも多いし。
今はキットとかも売っているけど、やっぱり数要るものって高いと続かないから。
たとえば港の風景を想像したしたときには、やっぱり船もいるでしょ?空想の中で港と絡んでいるものが欲しくなってくるね。

江若鉄道と駅

最後まで作り通すコツは?

細かな失敗は気にしない。だいたい作ってね、色塗ればそれなりになるんですよ。
「そうです」って言い切ればスケールモデルになるから。

電車にはやっぱり詳しい?

人よりは詳しいかもね。
でも何でもいいってわけではなくて、自分の好きなものには詳しい。自分なりのテーマがあって、昭和の市電の雰囲気が好きだから、新幹線とかは興味なかった。
(当時は)高速バスとか出来る前で、鉄道っていうのはやっぱり花形だったから。でもこれから先、近代(の乗り物)まで手を出すかどうかっていうのはテーマだね。

「職業病だな」と思った瞬間はありますか?

箱見るとやばいよね(笑)カステラの箱とかああいう長四角の箱は、車(車輪)つけたくなってくるよね。

これからやってみたいことを教えてください。

車両はぼちぼちやってみたい。あとはジオラマもって思っているけど、場所と財力がいるから。建物とか、ストラクチャーとか。
昔作ったものをまた新たに作り直すこともあるんですよ。
同じ図面を使っていても、手作りだから同じものはできないし、昔作ったものよりいいものが出来る。スクラップ&ビルドもあるから、終わりがないよね。
完全に(仕事)リタイアしたら、個展でも開こうかなとは思ってる。

京阪石坂線の旧型車

これから模型作りをはじめてみたい、という人にアドバイスをお願いします。

車ボディが完成するまでとにかくやってみること。やらない人にかぎって色々言うんだけど。だからね「評論家になれば作れない」んですよ。ちょっとしたことを気にしすぎると、出来なくなっちゃう。これはもう格言です。
ボディが完成するまではとにかくやってみる。モーターつけたりするのはお金がかかるから、仕上がりとかみて判断してもらえばいいけど。
缶スプレーを使おうとしたときに、やっぱり細かい霧をだすには押し方があるんだけど、やっていく中で体が覚えることもあるんで。懲りずにやっていれば上手くなることもあるし。模型をやっていて塗装が苦手って人もいるけど、でも僕は体が覚えてから、逆に塗装が好きになったくらいだから。
マスキングめくるときのね、楽しさってある。
失敗して「グシャ」ってやったこともあったけど、補修できるから。失敗しても少し冷却時間を置いてまたやり直してもらえば。

最後に、自分にとって模型作りとは?

生まれたときからあるから、自分の「オリジナル」。
家族に模型を邪魔がられることもあるけど、今は子供たちがいなくなったから勉強机とか全部空にしてもらって、自分の工具入れとかになっています。篭って作業しているほうが静かでいいんじゃない?集中していると飲み食いもあまりしないし、健康にはいいよね。
なんのためにやっているかとか考えていたらできない。そういうこと、何も考えなくしてくれる存在ですね。