わい
わいがや倶楽部
副編集長・山口絵美のつい、応援したくなっちゃう人。 1

町といっしょになって、旅人をやさしく出迎える宿。

Vol.1 YAMAKAMI Marina

山上 万里奈さん

GUEST HOUSE 蔵(KURA)オーナー

今回お邪魔したのは、長野県の須坂市にあるゲストハウスです。
明治から昭和初期にかけて養蚕と製糸業で栄えたこの町には、今も往時の繁栄をしのばせる蔵が数多く残っています。
かつて日本には横浜港へとつながる絹の道、シルクロードがありました。その源流の一つでもあった大笹街道に面して、「ゲストハウス蔵」があります。築100年以上の古民家を再生した、どこか懐かしい佇まいで、もともとは製糸家さん(おかいこさん)のお家だったそうです。
当時はここから蚕をヨーロッパや中国へと輸出し、国を越えた交流が行われていました。そして今はまた、再び世界各国から多くの旅人が訪れるようになり、国を超えた交流の場が甦りつつあります。

突然ですが、「スノーモンキー」ってご存じでしょうか?
近くの地獄谷温泉にいる、温泉につかるお猿さんたちのことで、テレビなどでごらんになったことがおありだと思います。
ところが、このお猿さんの入浴シーンは外国の方々にとってたいへん興味深いものらしく、世界各地から旅人がやってくるようになりました。

ただ、須坂の魅力は、なにもお猿さんだけではありません。旅人がほっとこころを休ませる、ゲストハウスと、素敵なオーナーのことを紹介させていただきます。


観光地にはない、日本人のありのままの暮らしを見てほしい。

この場所が好きなんです、と玄関から入ったところのいつもの場所にぺたっと座りこみ、笑顔で迎えてくれたオーナーの山上万里奈さん。スタッフ一人と山上さんと2人できりもりされています。意外なことに山上さんのほうは、朝が苦手なようです。

彼女は、ここ須坂市のご出身。大学卒業後は日本と中国で、日本語を教えてこられたそうです。言葉だけでなく、日本の文化も伝えることができる日本語教師の仕事はとても楽しく、天職だったと言います。
中国の山東省で教えていたころは、反日デモが多く起きていた時期でした。しかもそこは、かつて日本軍がひどいことをした地域です。それでも、報道とは違い、中国の人は偏見を持たずにとてもやさしく接してくれました。2年間の滞在中に、一度もいやな思いをすることはなかったと言います。個人同士の交流、コミュニティのたいせつさをそこで学びました。
その後、スリランカ人の彼と国際結婚をします。ところが結婚の手続きにとっても苦労をします。一人日本で彼を待つ間、ある地方の旅館に住み込みで派遣されます。その宿は、ミシュランガイドで紹介され、町に外国人観光客が急増しはじめていた飛騨高山にありました。ここでの半年間、様ざまなことを学びました。なによりおもてなしの魅力にとりつかれ、自らゲストハウスをやってみたいと強く思うようになりました。

山上さんは思い立ったらじっとしていられない方で、すべてをそこに向けて歩みはじめます。
まずは自分で修行できる場を探さなければなりません。そうして出会ったのが、「宿場JAPAN」でした。
そこでは予約の取り方や接客だけでなく、事業計画や補助金制度などの経営ノウハウ、あるいは宿同士のネットワークの作り方までも支援してくれます。素人の彼女にとっては、とても心強いところでした。
しかし時期は、よくありませんでした。東日本大震災が起きてしまったのです。あっという間に日本から、外国人の姿が消えました。
それでも、くじけることはありません。諦めることなく彼女は、宿場JAPANのゲストハウス品川宿で経験を重ねます。修行をつづけるなか、自分のゲストハウスのイメージがしだいに形づくられていきます。

須坂が、訪れる旅人の最初の玄関になれるとうれしい。
        

国の異なる人と人がつながり、地域とともに生きるという「宿場JAPAN」の多文化共生の理念に共感して歩き出した山上さんです。
町といっしょになってゲストを迎えられる宿をめざし、修行をつづけながら開業の準備を進めました。まだ何もない時点で、まず宿の名を「蔵」と決め、そこから約1年、その名に似つかわしい物件をあちこち探しました。
そして2012年10月、地元の人の協力に支えられ、リノベーションを終え、念願のゲストハウス蔵をオープンしました。

須坂は人口5万人の町。そこにはすでに、400人以上の外国人の方が暮らしています。とは言え、彼らの多くがなかなか地域社会になじめないのも事実です。
町に1軒、こういう宿があることがきっかけとなって、もっと彼らが住みやすくなってくれればと、須坂に住む外国人を招いてさまざまなイベントを計画し、実行しています。商店や飲食店とも協力し、町全体で外国人ゲストへのもてなしを進めていこう、というわけです。

        

皆さん笑顔!とっても楽しそう。ゲストとの交流の様子。

        

須坂東高校の生徒が作った日本語会話集。辞書にはのっていない方言も紹介。

また一方で、ワーキングホリデーも注目しています。
ワーキングホリデーとは、協定を結んでいる国の現地に滞在することによって現地の異文化を理解し、相手国と自国の相互理解を深めることを目的として作られた制度で、休暇を楽しむ目的で現地での生活費をまかなうための労働が許可されています。
そんな、ワーキングホリデーなどを利用し、長期休暇を日本で過ごしたい外国人のために、「日本でのスタートは須坂から!」をテーマに、新しい挑戦を始めています。
従来は、せっかく来日したのに言葉がわからず、住む場所も働く場所もなく、やがてお金が尽きて帰国せざるを得なかった人がたくさんいました。迎える側の、日本の現状を変えたい。そう強く思ったからです。
そうして昨年、台湾から、ワーキングホリデーで訪れる訪問者を迎えることができました。須坂市の農家さんにご協力をお願いし、彼らが少しでも長くいられるよう、働ける場所を提供してもらうことができたからです。もちろん、眠るところはここ、ゲストハウス蔵です。
課題はまだまだたくさんあります、と言いながら、とても楽しそうにそのことをお話してくれました。

山上さんの夢はつづきます。
「ゲストハウスはここ数年、ブームです。でも、旅人はいつの時代にもいます。その人たちがいつでも安心して泊まれるところを用意して、日本での最初の入り口にしてほしい。そしてここ須坂で日本人のふだんの暮らしや日本語を勉強し、次の地へと旅立ってほしい」
ゲストハウス蔵から始まるおもてなしが、町を変えていきます。飾らない、ありのままの、心地よい空間がここにあります。
訪れた旅人はきっとこころをくすぐられ、この町の名前を覚えて帰るのでしょう。

ご自分の体験をもとに、思いたったら一途に行動を起こす。
そんなまっすぐな、そしてやさしい女性、山上さんの夢を私は応援したい。

取材:副編集長/山口絵美

        

ゲストハウス蔵の様子

明治時代から時を刻む、築100年以上の古民家。当時の調度品が残されており、どこを見ても風情があります。お部屋の入口には、まず共用スペース(土間)があります。そこに昔の銭湯にあった下駄箱みたいな貴重品入れがあります。

        

お部屋の様子

        

清潔感あふれるお部屋。寝具もきれいにそろっています。

        

趣きのある縁側。ここから中庭をながめ、ゆっくりとした時間をたのしむことができます。

        

縁側から中庭をながめ、ゆっくりとした時間をたのしむことができます。
中庭には立派な梅の木があります。300~400個の梅がなり、毎年梅酒をつくります。

        

自由に利用できるキッチン。洗濯機や乾燥機が完備されているのが嬉しい。

        

洗面所。蛇口はリフォームしているが他は当時のまま。タイルや鏡に残る古い文字が新鮮に感じられます。


ゲストハウス蔵(Guest House KURA)

● 〒382-0086 長野県須坂市本上町39
● TEL 026-214-7945
● MAIL info@ghkura.com
● http://www.ghkura.com/