わい
わいがや倶楽部

副編集長、フィレンツェを歩く。

Vol.3 Mari Yoshida Foglia

フォリア吉田真理 さん

彫金作家

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大好きな父との別れ。

タイのバンコクにあるジュエリー工場で働くことが決まり、新しいチャレンジを心待ちにしていたときでした。悲しい知らせが届いたのです。それは余命半年という父の癌宣告。愛する家族の悲報に頭が真っ白になりました。
バンコク勤務から東京オフィスでのジュエリーデザイナーに移動させてもらえたことで、家族みんなで父を支えることができました。会社の方にはとても感謝をしています。
父と一緒に過ごせた時間はたった9ヶ月でしたが、家族は本当に濃密な時間を過ごしました。夕飯後、居間のテーブルで必死にお客様のデザイン画を描く私をじっと見つめてくれていた父を思い出します。幼い頃からやりたいことを自由にさせてもらっていましたが、いつでもそう優しく見守ってくれていました。
父の一周忌までの毎日、自分がこれからどのように生きたいのかと自問自答を繰り返しました。父の死から約2年、後ろ髪を惹かれていたあの場所へ戻ることを決意します。「自分の夢にもう少しだけ贅沢をしたい」と母に告げ、2006年フィレンツェに渡りました。

つくる、を仕事にする。

仕事にすることを強く意識して再びペルセオ校で学びながら、ジュリアーノに弟子入りをしました。そして“売る物をつくる”という姿勢を徹底的に叩きこんでもらいました。彼自身ずいぶんとファンタジックなデザインの物をつくったりしますが、いつも前提にあるのは「売るために物をつくる」でした。それに学んで作業時間を厳密に把握し、なるべく早くつくれるように努力をしました。またつねに売値を意識した作業計画を立て、技術を仕事に転換していくプロセスを身に着けていきました。

ジュリアーノさんのものづくり

2009年にふたりは30歳の年の差を乗り越えて結婚をします。モノづくりをとても愛しているところと、我は強いですがその分素直に生きる彼に惹かれました。
翌年も嬉しい出来事は続き、彼女はフィレンツェ若手職人10選に選ばれました。憧れていたこの町に認められた喜びと自信を手にすることができました。そしてこの受賞を機に念願だった独立を果たし、2012年春に夫・ジュリアーノとともにM.G.を設立。チェントロと呼ばれるフィレンツェの中心に工房を兼ねたショップをオープンしました。

『A&P YOUNG』フィレンツェ若手職人10選に選ばれる。

伝統をつなぐモノづくり。

地元の人や観光客も立ち寄れる路面店を選びました。
彼は主に教会の聖杯や銀器そして壺などを制作し、彼女はアクセサリー類を担当します。打ち出しの技術ではまだ彼に及びませんが、いい意味でライバルになりました。

「打ち出し」を受け継いだことで頭のイメージがよりダイナミックに表現できるようになった、という真理さん。巨大オブジェが好きでそれをジュエリーで表現したいと考えていた彼女にとって、この技法に出会えたのは本当に幸運なことでした。

お話をうかがっている時も「これ直せますか?」と、お店のドアが開きます。「いろんな人が突然来ますよ。フルオーダーなど難しいリクエストもあって大変ですけどね」といいながらも楽しそう。作品からはそんな彼女の前向きさが伝わります。
一番驚いたのが見た目からは想像できないほどの軽さと繊細な作りでした。手に取るとすぐに分かるのですが、身に着ける人の気持ちに寄り添った優しい作品づくりに感動します。

相手の立場に立って物事を考える大切さは両親からよく言われていましたが、より強く意識するようになったのは高校2年に経験した阪神淡路大震災でした。彼女の住んでいた西宮市は被害の多い地域でした。毎日「人を助けられるのは人しかいない」という問いかけにうなずき、助け合い励まし合って困難を乗り越えてきました。

「どちらかといえば世の中は自分ではどうしようもない状況にいることの方が多いと思います。だからそのことを自分なりに受け止めて前に進むことがとても大切だと思っています」と彼女は言います。

■真理さんのホームページ http://mari-y-foglia.com